株で儲かる手法として知られる「空売り」
株価が下落する局面でも利益を得られるのと、短期間で大きな利益が狙えるのが魅力です。
一方で「空売りは難しい、リスクが高い」といったイメージから、手を出せずにいる人も多いのでは。
そこで、空売りがなぜ儲かるのか仕組みを理解し、実際の取引で使えるよう、空売り銘柄の探し方、空売りするタイミングなどをローソク足チャートを用いて解説します。
目次
株の空売りは儲かる
空売りは儲かると聞くけど「そこまで言うほど儲かるものなのか」と思っていましたが、そんな疑問を吹き飛ばすニュースが出ていました。
新型ウイルス感染拡大での株安、空売り投資家に5兆円超の利益生む
引用元:2020年3月5日 Bloombergより
ニュースの配信元は、世界の金融・経済情報を配信するブルームバーグ。空売りが儲かることを裏付けるニュースです。
なぜ空売りはこんなにも儲かるのでしょうか。
空売りが儲かる仕組み
空売りとは、簡単に言うと「他の人から借りた物を売る」ことです。
借りた物は、いずれ返さないといけません。なので「買い戻した物を借りた人に返す」ことになります。
「借りた物を売って、買い戻して返す」これが空売りの流れです。
流れがわかったら、値段が下がるのになぜ空売りが儲かるのか、ストーリーで説明します。
マスクの在庫を大量に抱える業者と知り合いの太郎くん。1箱2,000円ほどのマスク10箱を業者から借りました。
ところがコロナウイルスによる需要の高まりを受け、マスク1箱が5,000円ほどに値上がり。
太郎くんは借りたマスクを、1箱5,000円で買いたいという人達に売りました。
しばらくするとマスクの価格は1箱2,000円程度に値下がりました。
太郎くんは借りていた10箱分のマスクを買い戻し、知り合いの業者に返します。
マスク10箱を5万円で売った太郎くん。買い戻すのにかかったのは2万円。太郎くんは3万円の利益を得ました。
これが空売りが儲かる仕組みです。
空売りはなぜ儲かる?
空売りが儲かると言われるのは「レバレッジをかけた取引」と「下落時の急激な値動き」があるからです。
- 「レバレッジをかけた取引」
- 「下落時の急激な値動き」
株でいうレバレッジとは、自己資金より大きな金額で取引を行えることです。
自己資金100万円にレバレッジを3倍かけると、300万円分の取引が可能になります。
※最大約3.3倍のレバレッジが可能
大きな金額の取引が可能なため、利益もより多く狙えるというわけです。
このように自己資金にレバレッジをかけてする取引を「信用取引」と言い、空売りと信用買いの両方で可能な取引です。
同じレバレッジをかけた取引でも空売りが儲かると言われるのは、下落時の値動きに理由があります。
株の空売りが儲かるのは、「下落時の値動きが急激だから」です。
株の値動きは上昇時よりも下落時の方が急激に動きます。
12営業日かけて上昇したアエリア(3758)の株価が、同じ値幅分の下落にかかった日数はたった1日です。
大きい値動きが短期的に起こるため「空売りは儲かる」と言われるのです。
これが空売りが儲かる仕組みです。
空売りを使えば儲かるチャンスは2倍に
株価上昇を狙った「買い」だけでなく、下落相場での「空売り」という選択肢があれば株で儲かるチャンスは2倍になります。
<信用買いだけの場合>※300株で取引
A⇒B:値幅100円×300株=30,000円
C⇒D:値幅200円×300株=60,000円
利益合計90,000円
<空売りができた場合>※300株で取引
A⇒B:値幅100円×300株=30,000円
B⇒C:値幅300円×300株=90,000円
C⇒D:値幅200円×300株=60,000円
利益合計180,000円
空売りが出来れば上昇相場だけでなく、下落相場でも利益を出すことができるため儲けるチャンスを2倍にすることができるのです。
儲かる空売りのタイミング5つ
空売り初心者がしかけて儲かる空売りのタイミングは下記の5つ。
- 不景気の入り口
- 決算またぎ
- 権利落ち
- 悪材料の公表
- 二番天井
不景気の入り口
不景気に入るタイミングで空売りをしかけることで市場全体の株価下落にのって儲けることができます。
でもどうやって不景気に入ったかどうかを判断するの?と思ったかもしれません。
安心してください。日経平均株価のチャートを見れば一目瞭然です。
日経平均株価はコロナウィルスの影響から、2020年2月半ば~3月半ば頃まで下落を続けています。
冒頭で紹介した「新型ウイルス感染拡大での株安、空売り投資家に5兆円超の利益生む」というニュースが証明しているように、このコロナ不景気での空売りで多くの投資家が利益を上げています。
不景気下では株価を下げる銘柄が多く、空売りによる利益を狙いやすくなります。
決算またぎ
好決算後に株価上昇したタイミングを狙って空売りをしかける手法があります。
好決算を受けて翌日にストップ高になっても利確や空売りによって売りの勢力が強まり、短期的に反落するケースが多々あるからです。
アドベンチャー(6030)は、3月13日に決算発表し、好決算を受けて翌営業日の3月16日にはストップ高になりました。
しかし、2日後の3月18日には一転してストップ安になっています。
各銘柄の決算月の確認は、例えばYahoo!ファイナンスの各銘柄ページで「企業情報」のタブを開くと記載されています。
決算を受けて株価上昇したら、その後値を下げることを見越して空売りをしかける選択肢も持っておきましょう。
※アドベンチャーの事例のようにすぐに反落する銘柄ばかりではなく、2,3日株価上昇を続ける可能性もあるため注意が必要です。
権利落ち
権利付き日のタイミングで売って、権利落ち日に買い戻すことで利益を狙う手法があります。
・権利付き日
―配当や優待などの対象者が確定する日のこと。
―決算日の2営業日前
・権利落ち日
―配当や優待などの対象者が確定した次の日のこと。
―決算日の1営業日前
配当や優待などは決算日の2営業日前の時点(権利付き日)にその企業の株を保有していた株主が対象です。
権利付き日を過ぎれば株を売却してもその決算期での配当や優待を受け取ることが出来ます。
多くの投資家が権利付き最終日に向けて高配当銘柄などに集まり、権利落ち日に売り抜けていきます。
これによって権利付き最終日に株価が上昇し、権利落ち日には株価が急落するケースがあります。
高配当利回り銘柄の青山商事(8219)の例です。
権利付き最終日の3月27日に株価が微増した後、翌営業日の権利落ち日3月30日に株価急落、その後決算日をまたいで4営業日連続で下げ続けました。
こういった高配当銘柄は権利付き最終日で空売りをしかけ、権利落ち日以降に下落を確認したら買い戻すことで利益を狙うことが出来ます。
悪材料の公表
悪材料公表のタイミングで空売りをすることで、株価急落によって利益を得られるケースがあります。
悪材料と見なされるニュースには下記のようなものがあります。
- 業績の下方修正の発表
- 減配・株主優待の改悪
- 好材料の出尽くし
- 特損を計上
- 月次売上の悪化
- 不祥事の発覚
- 来季の通期予想の悪化
etc…
サンバイオ(4592)は、新薬への期待感から徐々に株価を上げ続けていたものの、アメリカでの治験失敗の公表後に失望売りが殺到。
株価は約4分の1まで急落しました。
裏を返せば、ここで空売りを仕掛けていたらそれだけ資金を増やすことが出来たということです。
株価急落という一見悲観的になる場面で利益を得られるのが空売りの魅力です。
二番天井
二番天井のネックラインを下抜けたタイミングで空売りをすれば高い確率で儲かります。
二番天井はローソク足チャートを用いた「チャートパターン」のひとつです。
チャートパターンを使えば将来的な株価の動きを予測することが出来ます。
ぴあ(4337)では、上のチャートのように二番天井を形成し、ネックラインを下抜けてから急落しています。
ネックラインは空売りを仕掛けるタイミングの目安となるポイントで、二番天井の間の谷の安値で線を引きます。
二番天井を見極めるポイントは出来高です。
1つ目の山の頂上に向けて出来高が増え、谷に向けて出来高は減少します。
そして二番天井の頂上に向けて再度出来高が増加、その後の下落につれて出来高が減少し、ネックラインに到達すると一気に出来高が急増します。
この他にも窓埋めの法則やローソク足を用いた酒田五法など、チャートパターンで株の値動きを予測出来れば空売りで儲かる取引を実現することが可能です。
空売りのリスク
空売りは儲かるとは言え、いくつかリスクもあります。
ここでは4つのリスクを解説します。
- 委託保証金と追証
- 逆日歩
- 貸株料
- 決済期限
委託保証金と追証
追証(おいしょう)とは、信用取引の際に必要な担保金額が不足し、担保を追加で支払わなければならなくなることです。
信用取引の担保(委託保証金)は約定代金の30%以上が必要です。
しかし、含み損を抱えて担保余力が約定代金に対して20%を下回ると追証の対象になります。
例えば1株1万円の銘柄を100株=100万円の空売りをする場合、30%の30万円を担保として証券会社に入金します。
その後株価が1株1万1千円まで上昇してしまい110万円までふくれると、10万円の含み損が出ます。
30万円入れていた担保から含み損の10万円を差し引くと、残り20万円しか担保余力がありません。
信用取引の場合、もともとの約定金額(この場合は100万円)の20%が追証ラインとなり、担保余力が20%を下回ると追加で担保を入金する必要があります。
入金額はもともとの約定金額の30%まで余力を回復させるために必要な額です。
上で挙げた例の場合は、100万円の30%となる30万円になるまで入金が必要で、現在の担保余力は20万円なので+10万円を追証として支払います。
これが空売りのリスクの1つ「追証」です。
期限までに追証が支払われなければ強制決済され、上記の例の場合は担保余力の20万円だけが手元に残ります。
決済期限
追証以外にも強制的に決済されるケースがあり、それが「決済期限」です。
多くの場合、空売りから6か月以内に買い戻すという期限があります。
期日までに返済しない場合、期日当日の寄付後に強制的に反対売買で決済されます。
逆日歩
逆日歩とは、簡単に言えば空売りが殺到して株不足になったときに支払うことになる株借り料です。
通常空売りをする際、投資家は証券会社から株を借ります。
しかし、空売りが殺到して証券会社が保有する株式では足りなくなったときに、証券会社は証券金融会社に株を借ります。
さらに空売りが進んで証券金融会社の保有株式もなくなった場合、証券金融会社は銀行や生命保険会社などの機関投資家から株を借り受けます。
この際に証券金融会社から機関投資家へ支払う「品貸料」を、最終的にその株を借りる投資家が「逆日歩」という形で負担することになります。
逆日歩の計算式は
「株を借りている日数×1株1日あたりいくらの逆日歩×約定株数=支払額」
となります。
例えば、1株あたり2円の逆日歩が設定されている場合に100株を3日間借りているとすると
「3日×2円×100株=600円」が借り手の支払うコストです。
- 逆日歩の料金は証券金融会社が機関投資家から株を調達するまでわからない
- 借りている日数の計算には土日祝日も含まれる
上記2点には注意が必要です。
貸株料
貸株料とは、空売りの際に証券会社から株を借りるために証券会社に支払うコストです。
逆日歩とは異なり、株不足とは関係なく一律で支払います。
金額は約定代金に対して一定の料率をかけることで算出します。
各証券会社や注文方法によって設定されている料率は異なり、1.1%~3.9%ほどになります。
- SMBC日興証券
- SBI証券
- マネックス証券
- 楽天証券
制度信用 :年利 1.15%
一般信用 :年利 1.40%
制度信用取引 年1.15%
一般信用取引「無期限」 年1.10%
一般信用取引「短期」 年3.90%
一般信用取引「日計り」 年1.80%(1注文の約定金額100万円未満)
年0.00%(1注文の約定金額100万円以上)
制度信用:年利1.15%
一般信用:(無期限)年利1.10%
(短期) 年利3.90%
(1D・SP) 年利1.80%
制度信用取引 年1.10%
一般信用取引「無期限」 年1.10%
一般信用取引「短期」 年3.90%
一般信用取引「いちにち信用」 年1.80%(1注文の約定金額100万円未満)
年0.00%(1注文の約定金額100万円以上)
制度信用取引よりも一般信用取引のほうが「選べる銘柄の多さ」や「決済期限の長さ」などの理由で自由度が高い反面、貸株料も高く設定されています。
空売りの注文手順
空売りで実際に注文を出す手順を解説します。
- 信用取引口座を開設
- 銘柄を選定
- 空売り可能な銘柄か確認
- 信用売り注文
- 委託保証金を用意
1. 信用取引口座を開設
信用取引の1つである空売りを行うには、通常の株取引に使う口座とは異なる信用取引専用の口座を開設する必要があります。
信用取引口座の開設には各証券会社ごとの審査があり、金融資産の総額や投資歴などに基づいて判断されます。
2. 銘柄の選定
口座が用意できたら空売りを狙う銘柄を見極めましょう。
空売りで儲かる銘柄選定の方法は後ほど詳細に解説します。
3. 空売り可能な銘柄か確認
次に、目をつけた銘柄が空売り可能な銘柄かどうかを確認します。
空売り可能な銘柄には2種類あり、「貸借銘柄」と「一般信用取引銘柄」です。
貸借銘柄
貸借銘柄は、取引所で選定された「制度信用取引銘柄」の内のさらに限定された銘柄です。
比較的貸株料が安いものの、決済期限は最長6か月という制限が設けられており、6か月経過すると含み損があっても強制的に反対決済されます。
JPX(日本取引所グループ)のサイトで「貸借銘柄」に記載されている銘柄が空売り可能です。
一般信用取引銘柄
一般信用取引銘柄は証券会社ごとに定められた信用取引が可能な銘柄です。
決済期限は証券会社ごとに設定され、6か月以上保有できるケースが多いです。
ただし、貸借銘柄と比べて貸株料が割高です。
4. 空売り注文
空売りの注文は各証券会社で「信用取引」を選択して行います。
多くの場合「新規信用売り」から注文可能です。
5. 委託保証金を用意
信用取引の担保となる委託保証金は原則として、空売りの約定日から3営業日目の正午までに用意する必要があります。
必要な金額は約定代金の30%以上です。
現金だけでなく、株などの有価証券も委託保証金とすることが出来ます。
保証金の評価額が約定代金の20%を下回ると追証が発生するので注意が必要です。
空売りで儲かる銘柄の探し方
ここでは、スクリーニングを使って空売り銘柄を探す方法とローソク足チャートを見て空売りで儲かる銘柄を見極める方法を解説します。
空売りが成功する銘柄には特徴があるので押さえておきましょう。
スクリーニングで探す方法
空売りで儲かる銘柄をスクリーニングで探すなら「信用倍率」ランキングと「上昇率」ランキング上位の銘柄に注目します。
信用倍率
信用倍率が高いほど株価が急落する可能性が高いため、空売りで儲かりやすいです。
信用倍率とは、信用買いと空売りをしたあとまだ決済されていない株数の割合を表した数値です。
「信用倍率1倍」だと信用買い、空売りの残数が同じ数であることを表します。
信用倍率が高いほど信用買い後未決済の株式数の比率が高いことを意味します。
ということは何かのきっかけで株価が下落を始めたときに、それ以上の損失が出ることを恐れて損切りの売り決済がされる可能性のある株数が多いということです。
信用取引で株価が上がると見込んで買いのポジションをとっているわけですから、損切りは早めにしておきたいと考えるのが普通です。
つまり「信用倍率が高い=株価が急落しやすい」と言えます。
Yahoo!ファイナンスのランキングで「信用倍率上位銘柄」を確認することが出来ます。
値上がり率
株価急騰した銘柄はその翌日で急落する可能性も高く、空売りで利益を狙いやすいです。
株では本来の実力より買われすぎだと判断されれば適正価格に戻す市場の力が働きます。
業績にあまり影響を与えないちょっとしたニュースで急騰した銘柄は翌日には急落し、元の株価に戻るケースも多々あります。
また、前日のローソク足から隙間(窓)を開けて値上がりしている場合は、その隙間を埋めるように値動きする可能性が高く空売りも狙いやすくなります。(「窓埋めの法則」)
株ドラゴンの「値上がり率ランキング」で前日~数日前の急騰銘柄をチェックしてみてください。
ローソク足で探す方法
ローソク足では、高値圏で長い上髭が伸びていると下げ相場へ転換する可能性が高いです。
長い上髭は買い勢力の減少を意味し、売りの勢力が強まっていくことが予想できます。
この他にもローソク足を用いたチャートパターンで株価下落のサインとして読み取ることが出来るものをまとめます。
- 高値圏での長い上髭
- ダブルトップ
- 下落トレンド
詳しくは「ローソク足とは」の記事で解説しています。
株価暴落は空売りで儲かるチャンス
空売りを活用すれば下げ相場でも儲かるチャンスがあります。
ただし、信用取引にはリスクが伴うため、損切ラインを定めておくなどリスクヘッジについても同時に考えておく必要があります。
この記事で紹介した空売りで儲かるねらい目のタイミング5つを意識して銘柄をチェックしてみてください。
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