投資家が重要視する財務指標の一つ、ROE。
ROEの数値を見れば「企業の稼ぐ力」が分かるため、今後の成長が期待できる企業かの判断材料として使われています。
一般的には、ROEが高いと株価成長率も高くなるのですが、ROEの高さだけでは判断できないケースもあります。
そこで、より効果的にROEを銘柄選定の判断材料にするテクニックをお伝えします。
目次
ROEとは
ROEとは「Return On Equity」の略で「自己資本利益率(株主資本利益率)」と訳します。
平たく言えば、株主に出資してもらったお金など(自己資本)を使って、どれくらい効率的にお金(利益)を生み出しているのかを示す指標になります。
高ROEの企業は投資リターンが高く、投じたお金に対して期待できる利益額も大きくなるため、投資信託などの機関投資家(プロの投資家)も高ROE企業に注目していると言われています。
このため高ROE企業には大きな投資資金が集まりやすく、自己資本が増加。この資本を使ってさらに効率的に利益を稼ぎ出すため、業績が向上します。
その後好業績に魅力を感じた投資家によりさらなる買いが集まって株価上昇する好循環が生まれ、長期的に右肩上がりの株価上昇を続ける可能性が高いです。
ROEの計算式
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ここでいう自己資本とは、会社にとって返済する必要がないお金のことを指します。
具体的には株主に出資してもらったお金や事業運営で得た利益累計額、自己株式(会社が自社株式を買い取った金額)などで、大まかに「株主が出したお金」とも言えます。
この自己資本を使って、どれくらいのお金(利益)を稼いでいるかを見るのに、「当期純利益」という利益を使います。
当期純利益とは、会社が最終的に稼いだ利益を指します。
会社が稼いだ全てのお金から、全ての経費や借金の返済、税金の支払いを行い、最終的に残ったお金が当期純利益です。
【ROEの計算に必要な数値の調べ方】
自己資本と当期純利益、それぞれの数値を企業の決算短信で確認する方法を見ていきましょう。
ここではトヨタ自動車(7203)を例にします。
出典:トヨタ自動車2021年3月期決算要旨
決算短信の1ページ目に既に2つの数字が出てきています。
「当期利益」が当期純利益を指し、「資本合計」が自己資本の額を表しています。
数字が確認できたら当期純利益を自己資本で割り、100をかけることでROEが計算できます。
ROEの日本企業平均や目安数値
それでは、日本企業への投資でROEを投資指標として判断する場合、目安となる数値はどれくらいになるのでしょうか。
一般的に、上場している日本企業が目指すべきROEの水準は8%と言われており、15%を超えると優良企業と評価されます。
しかし、ROEの水準は業種によっても異なります。
自己資本が少なくてもすむ業種ほどROEが高く出る傾向があるため、業種によって平均値に大きな違いがあります。
ROEの水準を考える上では、業種別の平均値を意識して、業種ごとの年次別の推移も合わせて確認することをおすすめします。
業種別ROE平均値
一般的に製造業などの大規模な設備投資が必要な業種はROEが低くなります。
売上高から設備投資の費用を差し引くため、当期純利益が小さくなる傾向があるからです。
その一方、サービス業やIT業など、設備投資が必要でない業界は、費用がかからない分当期純利益も残りやすく、結果ROEが高くなる傾向にあります。
業種 | 集計社数 | ROE |
---|---|---|
全産業 | 3,388社 | 7.01% |
製造業 | 1,410社 | 6.58% |
非製造業 | 1,978社 | 7.57% |
金融業を含む全社 | 3,548社 | 6.62% |
水産・農林業 | 11社 | 6.98% |
鉱業 | 5社 | 0.12% |
建設業 | 155社 | 9.51% |
食料品 | 118社 | 7.66% |
繊維製品 | 52社 | 1.67% |
パルプ・紙 | 23社 | 5.82% |
化学 | 205社 | 6.50% |
医薬品 | 61社 | 8.21% |
石油・石炭製品 | 10社 | 6.35% |
ゴム製品 | 19社 | 1.46% |
ガラス・土石製品 | 56社 | 5.21% |
鉄鋼 | 42社 | -0.12% |
非鉄金属 | 34社 | 5.73% |
金属製品 | 87社 | 5.24% |
機械 | 223社 | 4.78% |
電気機器 | 235社 | 10.02% |
輸送用機器 | 89社 | 5.22% |
精密機器 | 49社 | 6.65% |
その他製品 | 107社 | 10.09% |
電気・ガス業 | 24社 | 6.20% |
陸運業 | 61社 | -6.53% |
海運業 | 13社 | 22.93% |
空運業 | 5社 | -33.94% |
倉庫・運輸関連業 | 36社 | 7.90% |
情報・通信業 | 444社 | 22.38% |
卸売業 | 310社 | 5.95% |
小売業 | 334社 | 3.96% |
不動産業 | 129社 | 6.73% |
サービス業 | 451社 | 2.41% |
銀行業 | 80社 | 4.10% |
証券、商品先物取引業 | 38社 | 7.98% |
保険業 | 12社 | 7.05% |
その他金融業 | 30社 | 8.43% |
引用元:JPX調査レポート「決算短信集計結果」
特定企業のROEの調べ方
ROEは、各証券会社の個別銘柄ページや四季報、TRADER’SWEBのような投資情報サイトで調べることができます。
またIR BANKを使うと、過年度のROEやその他の指標も一度に見ることができて便利です。
出典:IR BANK「9984 ソフトバンクグループ」
ROEが高い企業ランキング
2021年11月9日時点で全市場ROEの上位5社について、その理由を解説していきます。
121.21%:オウケイウェイヴ(3808)
オウケイウェイヴは、質問・回答サイト「OKWave」の運営と、法人や自治体向けに関連サービスを提供しています。
また仮想通貨やブロックチェーン技術開発も行っています。
ここは2021年5月、同社の売上の約95%を占める主力事業を売却したことで2021年6月期の事業譲渡益が大きく増え、営業損失、経常損失を出しているにも関わらず、当期純利益が大きく増えました。
その結果このような高いROEが出ています。
101.98%:ジョイフル(9942)
ジョイフルは、九州を中心にステーキ&ハンバーグを軸としたファイミリーレストラン「ジョイフル」を展開する小売業です。
ここでは、2019年、2020年に計142憶円の赤字を出したことで株主資本を大きく減らしています。
その結果この高いROEを出しています。
97.40%:coly(4175)
colyは女性向け作品に強みをもつ、モバイルゲームの開発、運営を手がけており、自社キャラクターやグッズも展開しています。
ここでは2019年から2020年にかけて、売上高を倍増しつつも原価及び販管費を抑えることで当期純利益を7倍にしています。
そのまま純資産も増やし、健全に高いROEを出しています。
大規模な設備投資費が必要でない業態であること、開発は大半を内製化してヒット作を連発していることも高ROEの要因となっています。
89.36%:コンフィデンス(7374)
コンフィデンスは、ゲーム等のエンターテイメント業界に特化した人材派遣業を展開しています。
また運営するWEBメディアで広告事業も行っています。
ここも順調に売り上げを伸ばし、結果当期純利益、自己資本を増やしています。
結果この高いROEとなっています。
また業態が大規模な設備投資費が必要でないことも高ROEの一因となっています。
87.89%:Waqoo(4937)
消費者の反応や要望をダイレクトに汲み取り商品の企画・開発に活用するD2C(Direct to Consumer)事業を手がけています。
年商の9割がサブスク型のEC販売で顧客データ解析力にも強みがあります。
ここは2021年6月29日に新規上場したばかりの会社です。
まだ自己資本は大きくありませんが、当期純利益を出しており、その結果高ROEにつながっているようです。
ROEが上がる要因
高いROEとは、より少ない資産で多くの利益を生み出す必要があります。
よって、資産を減らすことや利益を増やすことがROEを上げることにつながります。
それぞれどんなケースがあるのか、より具体的にみていきましょう。
利益を生まない無駄な資産が減った
今ある会社の資産で無駄に社内に滞留しているものがないかを見直し、資産を減らす(=資産を利益に変えていく)ことは有効です。
具体的には、
- 受取手形をもらわない
- 売掛金の回収を早める
- 回収が滞っている売掛金や貸付金、未収入金や立替金を回収する
- 不良在庫を処分する
- 固定資産の早期償却を行う
- 不要な資産を現金化、損金化する
などがあります。
コスト削減に成功した
利益は売上からコスト(費用)をマイナスしたものになります。
よってコスト(費用)を抑えることは利益拡大に有効です。
具体的には
- 発注の集中化や競争化による仕入れコストの削減
- システム化による人員削減
- 効果の確認できない広告宣伝費の削減
などがあります。
しかしコスト削減を無計画に行うと、働く人に過度な負担がかかり、引いては将来の売上高の減少にもつながるため、実施前には慎重に検討を行う必要があります。
総資産回転率が上がった
総資産回転率とは、事業に投資した総資産が有効活用されて売上に結びついているかどうかを見る経営分析の指標で「売上高÷総資産」で計算します。
つまり、いくらの資本を使って、その何倍の売上を獲得することができるのかがわかります。
この総資本回転率を上げるためには、この資本を
- 売上を上げるための債権をどれくらいで回収できるか
- 在庫をどれくらいで売り上げに変えられるか
- 固定資産からどれだけ売上があがり回収できるか
という視点で見て、それぞれの点を改善することで上がっていきます。
具体的には、
- 債券の回収条件を見直す
- 仕入れから販売までの販売スピードを改善する
- 売上に還元しにくい遊休資産を処分する
などがあります。
財務レバレッジが上がった
財務レバレッジとは、「自己資本の何倍の大きさの総資本を事業に投下しているか」を示す数値をいいます。
財務レバレッジが大きければ、借入金や社債など他人資本の割合が高いことを表します。
財務レバレッジを上げることで、より多くの他人資本を活用して利益を上げることになり、結果、少ない自己資本でも利益を上げられます。
しかし「財務レバレッジを上げる=借り入れを増やす」ことになるため、借入返済や利息返済額が膨らんでリスクが高い状態になります。
財務レバレッジは、業界平均と比較して財務ポジションが適正かも合わせて確認していくことが必要になるので注意しましょう。
営業利益が増加した
営業利益とは、会社の本業としての成績(主たる営業活動から得られる利益)を表す利益です。
日本企業のROEが低い理由の一つとして、利益率の低さが挙げられますが、この利益率の改善も営業利益を増やすことにつながります。
具体的には
- 客単価や客数を増やす、付加価値をつける等で売り上げを上げる
- 仕入れ先との交渉や仕入れ先の見直し等で原価を下げる
- 家賃や広告宣伝費等の経費や役員報酬の見直し等で販管費を下げる
などがあります。
ROEの問題点と株価の関係性
投資家から投資効率をみる指標として非常に重要視されているROEですが、実は問題点もあります。
それはROEが高い=優良企業と単純には言えないということです。
ROEを高める方法として、分子である当期純利益を上げる方法と、分母である自己資本を下げる方法と2つあります。
当期純利益を上げることは望ましいROEの高め方といえます。
一方で、自己資本を下げる方法でROEを高めた場合、業績は変わらないにも関わらずROEが上がってしまうことになります。
例えば、赤字続きで純資産を減らして債務超過寸前になった会社が、昨年と同じ売上を上げてもROEは高くなってしまいます。
このようにROEが高いことは、イコール優良企業と単純に言い切ることはできません。
しかし、それでも高ROEの会社の方が株価が上がりやすいので、投資家にとって重要な指標であることに変わりはありません。
ROEを見る時は、利益をしっかり上げている健全な会社かどうか等、十分確認しながらみていきましょう。
ROEとROAの違い
ROEに似た指標として、ROAというものがあります。
ROEは返済する必要のない自己資本でどれだけ効率よく利益を上げることができるのかを見る指標です。
それに対してROAは総資産(自己資本+返済する必要のある他人資本)に対してどれだけ効率よく利益を上げるのかを見ます。
ROEは出資に対するリターンのため、異業種間での比較に用いることができますが、ROAは総資産に対するリターンのため、異業種間での比較はできないという特徴もあります。
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